お得感のあるソーヴィニヨン・ブラン&男子のためのロゼ? 〜ロワールのカンシーとルイィ「ドメーヌ・マルドン」より〜
07/14
しつこいようですが(笑)、日本の蒸し暑い夏には爽やかなソーヴィニヨン・ブランがとってもよく合うと思うのです。そこで、今回はマイナー地域ではありますが、ロワールのカンシーとルイィのワインをご紹介します。サンセールから西へ20kmほどの産地で、その昔カンシーのワインはサンセールより有名だったんですよね。そうそう、それから男子のためのロゼもあります!
2年前にロワールへ行きました。12月初めだったので、気温がマイナスの日もあってとても寒かったのです。その寒さの中でのサンセールをはじめとするソーヴィニヨン・ブランの試飲は、ホッカイロを常備していても身体の芯から冷えてくるような感じでした。それはともかくとして、その時に、カンシーやルイィといった小さな産地も訪問させてもらい、とても貴重な機会となりました。
<カンシーの名声>
カンシーに行って聞いた話では、なんと、かつてはサンセールよりカンシーのほうが大人気だったというのです。
「昔、サンセールはバーで飲まれるアペリティフ、カンシーはレストランで飲まれる食中酒だった」と。でも、いわば今は逆転しています。それには事情がありました。
カンシーは、サンセールよりも早く1936年のAOC制定と共にAOC認可を受けています。ところが、第二次大戦後にフランスワイン産業が危機的な状況に落ち込みました。それを受けて、50年代にはカンシーやルイィにある多くの生産者の当主は、次の世代に敢えて跡継ぎを強いることなく、近隣の都市ブールジュやパリへ出て他の仕事につくように薦めたそうです。
しかし、ちょうどプイィに国道7号線が開通し、南からパリへ向かう人の通り道となりました。その結果、途中でワインを購入して行く人々が増加して、プイィ・フュメの販売量は堅調となりました。そしてサンセールでも、バーでの販売、アペリティフのワインというイメージだけでは飽き足らず、50年代後半にはボトルに詰めてパリへ向かい、PR活動し始めたのです。その結果、60年代からサンセールの需要が一気に伸びていきました。
一方カンシーとルイィは、70年代にはドメーヌ・マルドンなどの数軒の老舗ドメーヌが残るのみ、という状況になっていました。サンセールやプイィの成功例を横目で見て悔しかったにちがいありません。ようやく80年代になってから、かつての栄光を取り戻そうという機運が生まれたのです。
というわけで、多くの努力を積み重ねて質の高いソーヴィニヨン・ブランが出来上がっているのですが、価格的にはまだ少しお得なままです。世界的に有名産地になってしまったサンセールやプイィ・フュメに比べれば、まだ控えめな存在だからなのでしょう。でも、このニッチな地域は注目に値すると思います。
<ドメーヌ・マルドン>
訪問先のひとつが、老舗の「ドメーヌ・マルドン」。カンシーに15haとルイィに5haと、両方に畑を所有しています。現在5代目となる当主のエレーヌ・マモー・マルドンさんは、2002年に家業を継ぎました。まだお子さんが小さいらしく、ドメーヌの運営と子育てで大忙しの様子でした。
エレーヌさんの曾祖父が創業しましたが、2代目の時代にはフィロキセラがこの地域にも到達してしまいました。そのため、一旦パリへ仕事を求めて出たのですが、1913年には故郷へ戻り、再興を果たしました。その後は父の代で、叔父も加わり畑を拡大したといいます。
マルドンでは、樹齢の古い畑を所有していることもあり、「AOCでの規定ではヘクタールあたり59hlまで収穫可能ですが、うちは約40hlです」と、全体的に収穫量が低いのも特徴です。
環境問題への意識も高く、醸造所で使用した水は屋外に設置された浄化槽へ入れてから川へ流したり、ルイィの畑では有機栽培へ切り替えたりしています。
カンシーはソーヴィニヨン・ブランから造る白ワインの産地ですが、ルイィの場合には赤・白・ロゼを造れます。ここで造るルイィのブランド名は「リュック・タボルデ」といいますが、ドメーヌ・マルドンの醸造長の名前でした。2004年から務めていて、2011年からは経営にも参画し始め、同経営でドメーヌ・リュック・タボルデも興したようです。
<清々しいルイィと、まろやかなカンシーのソーヴィニヨン・ブラン>
日向夏のような黄色い果皮の柑橘類や白桃の香りが、クリアーで清々しく、フレッシュに立ちのぼり、上品で、酸がとても生き生きとして、フレッシュ感にあふれた快活な味わいです。
ハツラツとした味わいで塩っぽさも感じられるので、魚介類が食べたくなります。貝類の料理、例えばボンゴレ・ビアンコあるいは魚の塩焼きといった和の料理でも楽しめそうです。
「カンシー・トラディション2013 Quincy Tradition 2013」
(平均樹齢35年の畑より。土壌は、石灰質、粘土、大きめの砂(サブレ)など)
黄色い果皮の柑橘類やパイナップルのような、より熟した果実が香り、温度が上がるとマンゴー的要素も出て、フレッシュでまるみも感じられます。開いた華やかな香り。味わいもなめらかで丸みがあり、酸もソフトに感じられます。
グレープフルーツと夏みかんの間ぐらいの柑橘類を思わせる香りが印象的で、鶏のソテーやイカ・タコ系のパスタと合わせたくなります。
「カンシー キュヴェ・サン・テドム2013 Quincy Cuvée St. Edame 2013」
(1.5haの樹齢35〜65年の古樹。ステンレスタンクで醸造し、5月までシュール・リー)
創業者のエドムEdméへのオマージュとして、古樹のぶどうで造ったもの。
少し閉じ気味ながら、香りの強さと透明感が増しているのはわかり、白桃や柑橘類、ミネラル的な引き締まったニュアンスを感じられる香りです。味わいはとてもなめらかで厚みがあり、ふっくら。酸は果実味に包まれていながら、しっかりとしたバックボーンになり、みずみずしく。ジューシーな柑橘類を食べたような後味です。
ルイィもカンシーも、例えばサンセールと比べると、ぶどうがより熟しているのだとわかりますが、特にカンシーの熟度の高さが印象に残りました。もともとこのカンシーの土地でのぶどう栽培が、周辺のどの地域よりいち早く始められた、という事実から考えても、昔からぶどう栽培に適した地域として広く知られていたということなのでしょう。
ロゼワインというと、色がピンクだということや甘口ロゼワインの存在から、女性の飲み物、というイメージが定着しています。でも、ロワールの現地で男性に人気のロゼがあるというのです。辛口のロゼです。
でも、彼らはワイン・バーで「ロゼください」とは言いません。「グリを一杯」。
ルイィでは、ピノ・グリで造るロゼ色のワインがあって、それを「グリ」というのです。想像するに、確かに男性は自分のためにロゼを注文しにくいのかもしれません。
「ルイィ グリ 2013 Reuilly Gris 2013」
淡いサーモンピンク。柔かな香りで、熟した白桃、洋梨、花など、少しアロマティックな印象です。
なめらかな舌触りで、オイリーで酸はソフトで、厚みがあります。単体でも、ナッツやカナッペ、ハム、スモークサーモンのおつまみ、あるいはパスタと楽しみたい雰囲気です。
辛口ですが、とてもなめらかな触感なので、ワイン単体でも飲めそうな味わいです。夏の夕暮れにワイン・バーで一杯、テラスで食べるランチに一杯。「グリを一杯」なんて、ちょっと格好よくないですか? ロゼ色の「グリ」を、どこかで流行らせてくれるとよいですね(といっても、それほどだくさん在庫が残っているわけではなさそうですが)。
<付記/カンシー&ルイィ>
カンシーが1936年に、ルイィが1937年にAOCに認定。
いずれもサンセールから南西方向にある産地。トゥール付近で合流するロワール河の支流、シェール川の右岸沿いにあり、カンシーのほうが川に近い。
カンシーは主に砂と砂礫で構成される台地で、下層には粘土質もみられる。この地方で最も早くからブドウ栽培が始められたとされている。栽培面積は270ha。生産量は11,971hl。ソーヴィニヨン・ブランのみ栽培。
ルイィは、キンメリジャン・マールの丘や砂礫と砂の段丘。ソーヴィニヨン・ブランから白、ピノ・ノワールから赤とロゼ、ピノ・グリから「グリ」と呼ばれる淡いロゼ。赤とロゼのAOC認定は1961年。栽培面積は215ha、生産量は7,750hl。60%が白ワイン。
(輸入元:ラック・コーポレーション)
(text & photos by Yasuko Nagoshi)
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