東澤壮晃の楽しい嬉しい美味しいヒント/〜Hokkaido Lamb meets HODDLES CREEK ESTATE〜
07/15
北海道最北「稚内」から南側の入り口「函館」までの距離は約630kmあるらしく、自動車を運転していけば8時間はかかるでしょう。
そんな広い北海道ですから、一言で北海道と言っても北と南では気候が随分違い、育まれる食材もそれぞれの個性を持っています。
今回は、私の住む北海道の道北地域、それも北緯44度とかなり北側(東京都庁舎で北緯35.4度くらい)の羊肉と、直線距離にして約9,200km!も離れている産地のワインが出会った事について書いてみましょう。稚内と函館が近所に感じてしまうほどの距離です。
ちなみに、歩いて行けるとしたら1910時間(寝ないで歩いて約80日)、とてつもない距離のペアリングです。
まずは、羊についてお話をしましょう。
年間を通して青草が生える時期が短く、つい最近まで山奥に残雪が残っていた地域で育つ羊たちは、フランスの羊ともオーストラリアの羊とも異なるキャラクターを持っています。
それは、羊肉特有と言われるフレーバー (flavor)が極端に少ない事。
餌由来と言われるその個性は、たっぷりの青草を食む事で肉に現れますが、この地域では、青草を食べる事ができる期間が極端に短く、主食が牧草サイレージ (silage)になるため、青い(青草由来の)フレーバーが極端に少なくなります。
更に言えば、この地域には驚くほどクリーンな天然水が豊富にあり(平成の名水100選)、綺麗な土壌、澄んだ空気、羊にとって大切な3大要素がそこにあります。
ひとつ羊飼育において困難な要素をあげるとすれば「大雪」と「寒すぎる」事で、真冬にはマイナス30度くらいになりますが、その代わり害虫や菌などは発生しにくく、抗生物質にたよった飼育をする必要がありません。
他の品種に比べ体が小さめ、筋肉繊維は至極繊細、筋肉線維には特に脂肪分が少ない赤身肉が特徴、言いかえれば非常にデリケートでエレガントな羊肉です。
このようなバックグラウンド、そして特徴のある羊肉にどんなワインをあわせるのでしょう?
思い描くのはエレガントな冷涼気候のワイン。
そう!アッパーヤラヴァレー!!
幸運な事に、プロモーションの為に来日していたHODDLES CREEK ESTATE(ホドルスクリーク エステート)の「Franco D’Anna(フランコ・ダナ)」氏のメーカーズディナーで、素晴らしい体験ができましたので当日の様子を含めてご紹介します。
今回の会場はオーストラリアに愛情を注ぐ、大阪は北新地にある「G’day ワイン食堂」。オーストラリアワインのスペシャリストでもある稲次シニアソムリエがセレクトし、オーストラリア愛に溢れすぎた稲次シェフが羊を調理してくれました(名字が同じなのは偶然ではなくご夫婦だから)。
私自身も愛してやまない彼のワイン。
ホドルスクリークとはヤラヴァレーGIにある小地区の名称で、ブドウの樹勢を抑える努力が必要なほど肥沃で、非常に層が深い火山土、起伏の激しい丘陵地沿いにあり、「アッパー ヤラヴァレー」の文字が示す通り、標高が高く冷涼な気候から産まれるワインはエレガントでデリケート。
ワインメーカー「フランコ・ダナ」のグランパ(祖父)は、フランコの父トニーが6歳の時にイタリアからオーストラリアへ移住してきたそうです。
当時はイタリアのパンやチーズ、プロシュート、そしてワインなどを輸入販売していました(父トニーのイタリアワイン貿易会社は、現在でもオーストラリアで最大と言われる規模を誇っています)。
トニー曰く、ホドルスクリークに定住しようと決めたのは、何ものにも代えがたい最高に綺麗な水があるから。今でも彼らはボトルやタンクの洗浄にホドルスクリークで湧き出るミネラルウォーターを使用しているそうです。
実家のワイン商で仕入担当をしながらメルボルン大学で商業学修士をとったフランコは、ワイン造りの為にチャールズ・スチュアート大学に再入学、栽培学を修め97年にこの地で植樹を開始しました。
その後2000~2002年にはMount MaryのMario Marsonで、また2006年にはブルゴーニュ、ジュブレシャンベルタンで研鑽を積むなどし、ワインメーカーとしてのキャリアを積み、2004年には 2003ヴィンテージのHoddles Creek Chardonnayがヴィクトリアンワインショーで2つのトロフィーを獲得、その存在を知らしめると、その後は毎年のようにワインショーで Hoddlesの名前を聞くようになりました。
2009年にはオーストラリアのカンタス航空のファーストクラス、ビジネスクラスの両ラウンジで供され、最も注目 する若手生産者に贈られる「The Young Guns of Wine」や、オーストラリアのベスト旨安ワイナリーとして「Best Value Winery of the Year」を獲得し、現在では世界各国のワインラヴァーから注目される存在になっています(なので、昨今はだんだんと入手が難しくなってきています)。
人為的な技術を極力加えることなく栽培・醸造された彼のワインは、アッパー ヤラヴァレーのテロワールを忠実に表現しているのです。
ここで繋がりました、道北で育った仔羊とホドルスクリーク エステートのワイン。
冷涼な道北とアッパー ヤラヴァレーから、テロワールを忠実に表現した二つが北新地で出会いました。羊肉の産地「美深町仁布地区」からホドルスクリークまでの距離9,200kmを繋ぐ奇跡です。
この日は彼が造る様々なワインが登場しましたが、羊肉に合わせたのは「HODDLES CREEK Yarra Valley Cabernet Sauvignon/ホドルスクリーク ヤラヴァレー カベルネソーヴィニョン」。
濃厚な味わいを連想してしまいますが、このカベルネ・ソーヴィニヨンはタンニンがソフトで絹のような仕上がり(アルコール度数は12.5%)。
北海道産仔羊は、味わい深い赤身が楽しめる「脚肉」、それも脂肪が筋肉繊維の中に殆ど無く筋肉線維が細かい「しんたま(ナックル)」です。※参加者毎に部位は違ったようです。
強からず弱からず、細やかな仔羊の筋肉繊維に絡みつくソフトなタンニンを楽しむ事が出来ます、まさにドンピシャの1本。
また、お互いの食材には本来あるであろう「青っぽさ」がないので、いずれを口に含んでも「品」を感じる相性の良さを見せてくれます。もちろん、シェフの火入れが素晴らしかった事は言うまでもありません!
北海道の食材に北海道のワイン、オーストラリアの食材にオーストラリアのワインを選ぶことも楽しい組み合わせですが、沢山の情報がある現代では、その垣根を飛び越え、思いっきり遠くの地域を結び付けたペアリングが楽しめる幸せな時代。
2012年6月4日にワインメーカー「フランコ・ダナ」とヤラヴァレーで出会ってから3年かけて実現した、彼のワインと北海道産羊を一緒に楽しむ事ができた幸せなお話でした。
ご縁を紡いでくれたkpオーチャードの谷上氏、仔羊を使ってくれた稲次ご夫妻に感謝!!
(text & photos by Moriaki Higashizawa)
カテゴリー | レストラン | |
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店名 | G’day ワイン食堂 | |
住所 | 大阪府大阪市北区堂島1丁目3−33 新地萬年ビル B1F | |
最寄駅 | 北新地駅から244m | |
電話など | 06-6347-4404 | |
営業時間 | 月~金:18:00~23:00までの入店ご案内 土・祝:18:00~23:00 日:11:30~14:30、17:00~23:00 食材が売り切れの際は、営業時間前でも閉店させていただく場合がございます。 |
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定休日 | 不定休 土日祝日は、基本的に営業 | |
URL | ホームページ |
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