ワイン&造り手の話

 

ボルドーの1級シャトーをはじめとするワインの高騰ぶりは、多くの方がご存知のことでしょう。その要因ともなった偉大な双子のヴィンテージ、2009年&2010年の後となる2011年は、ボルドーの多くの造り手にとって「厳しいヴィンテージ」となったと言われています。クリュ・ブルジョワの2011年をいくつか試飲しながら、造り手さんに話を聞いてみました。

 

<印象に残ったワインの造り手からの情報>

ある人がこう言いました。「2009年はパワーの年。2010年は奇跡の年。2011年はクラシックな年」。複数の人の話をまとめると、この言葉が一番簡潔に3つのヴィンテージの差を表現しているのかな、と思いました。

 

Deyrem Valentinマルゴーの「シャトー・ディルム・ヴァランタン」

「メルロはとてもよかったですね。ただ、カベルネ・ソーヴィニヨンが難しかった。収穫前に降った雨も影響したと思います。雨の後でもメルロは問題なかったけれど、カベルネ・ソーヴィニヨンは私たちが望む段階までの成熟をしてくれなかったのです。そう、だから例年よりカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド比率を下げました。10%もね。1%異なるだけでとても味わいが違うのよ。だからとても大きな差なの」。

ここのワインは、とてもまろやかでした。熟したチェリーやカシスなどの黒い果実と、適度なロースト香がする、まるみのある香り。味わいも全体にまろやかで、酸もソフト。上品でバランスのよい味わい。既に心地よい食感でした。

 

リストラック・メドックの「シャトー・ボーダン」

「よい年でしたよ。ボディと上品さを兼ね備えたバランスのよい年で、エレガンスをとてもうまく表現できたヴィンテージです。うちのワインでも、価格は確かに2009や2010のほうが少し高いですね。でも、うちでは上品さをとても大切にしていて、エレガンスという点では2011年のほうが秀でています」。

おっしゃる通り、エレガントなワインでした。スパイシーな香りが心地よく、上品な酸が果実味とバランスした、しなやかな味わいで、こちらも今からでも美味しく飲み始められます。

 

 

 

 

 

Reverdiリストラック・メドックの「シャトー・ルヴェルディ」

とてもスパイシーで、ほんのりロースト香もし、果実感も充実した香り。味わいも丸みがありながら力強いストラクチャーとたっぷりとしたタンニンが印象的。しかも、タンニンは多いけれどまるみがあり、ストレートな樽由来ではなさそうなニュアンスで、ちょっと不思議な感じがしたので聞いてみました。

「90年に畑の植え替えをして、プティ・ヴェルドを増やしたんですよ。今、栽培面積はメルロ50%、カベルネ・ソーヴィニヨン30%、プティ・ヴェルド20%。2007年からプティ・ヴェルドの割合を10%にしていたけれど、この2011年は30%にしている。(フランスの評価誌)レヴュー・ド・ヴァン・ド・フランスでも、いい評価をもらいましたよ」という。

スパイシーさや豊かなタンニンは、プティ・ヴェルドからくるものだったのですね。

ちなみにこのシャトーでは、まずメルロを収穫して、その後にカベルネ・ソーヴィニヨンの収穫開始。でも一旦カベルネの収穫は中断してプティ・ヴェルドの収穫をし、その後にもう一度カベルネを収穫するそうです。

 

ムーリスの「シャトー・ポメイ」

造り手さん不在で話は聞けませんでしたが、果実とロースト香の香りがバランスよく、なめらかでしっとりとした食感、そしてきめ細やかなタンニンが印象的でした。ラベルもちょっとモダンな感じで目を惹きます。

 

オー・メドックの「シャトー・ド・マルル」

こちらも造り手さんに話は聞けていませんが、果実の熟度がとてもよく、樽のロースト香とも融合した香りで、まろやかさのあるバランスよい味わいで、ボルドーならではの上品な酸が心地よいのが印象に残りました。

 

<2011年のまとめ>

総合すると、2011年はエレガントで比較的早く飲み始められる年のようです。

春は気温が高くてドライ。6月末頃には特に水不足が深刻に。

夏は恵みの雨が降ったものの、気温が低く、冷夏だった。

秋は再び気温が高くドライになり、ブドウは成熟へ向かった。ただ、冷夏の影響で理想的な成熟とはいえない。

「メルロはよかったけれど、カベルネ・ソーヴィニヨンが難しかった」というのは、冷夏の影響が出たと考える方が妥当なようです。「秋は晴れたのでカベルネ・ソーヴィニヨンの収穫を待ったけれど、それでも思うような成熟をしてくれなかった」とも言っていましたから。

そしてもう一つの問題は、房による成熟度合いの違い、一房の中での粒の成熟度合いの違いなどがあったこと。ですから、選果に相当の労力を使わなければならなかったようです。

そういう意味で、2009年や2010年は皆が諸手を上げて喜んだ年だったのとは対照的に、「造り手の力量次第」な年。いかに仕事を丹念に行ったかが問われる年となったのです。

 

ともあれ、価格がリーズナブルで早くから楽しめるので、飲み手にとっては待たなくても良いラッキーな年ではないでしょうか。

こちらの記事も是非お読みください。「クリュ・ブルジョワを知ってますか?」

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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