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クロ・コランの位置はここ。メゾン創立に先立ち、1760年にクリコ家が買った1.4ヘクタールの畑。

<最近はベースワイン試飲が花盛り>

最近、プロ向けにシャンパーニュのベースワイン(ヴァン・クレール)——キュヴェのコンポーネントとなる原酒——を試飲させるメゾンが多くなりました。

そもそもシャンパーニュにおいて、単一クリュや単一品種のアイテムはあくまで例外であり、本来、アッサンブラージュによって完成へと導くのが王道です。アサンブラージュのパーツひとつひとつを詳らかにすることで、メゾンの思想、哲学を知らしめようという意図があるのでしょう。ラファエル・ベレシュやオーレリアン・ラエルトらが中心となって結成した「テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ」というグループは、毎年、ベースワインを披露する試飲会を開いているほどです。

さて、今回はヴーヴ・クリコのベースワイン。しかもロゼに使われる赤ワインの試飲です。

ヴーヴ・クリコがシャンパーニュ・ロゼのパイオニアであることは広く知られています。創業からわずか3年後の1775年に、ロゼを出荷したことが文献に残っており、今までのところ、他のメゾンでこれより早くロゼの存在を示す例は見つかっていません。

このヴーヴ・クリコが最初に造ったロゼも、今日と同じように、白ワインに赤ワインをアッサンブラージュしたものでした。フランスのAOCにおいて、他の地方では白ワインに赤ワインを混ぜてロゼを造ることを認めていないにもかかわらず、シャンパーニュのみ例外扱いなのは、歴史的な見地から妥当……というのがシャンプノワ(シャンパーニュの人々)の主張です。

またこれは余談になりますが、その昔、ロゼの色がなかなか安定しないため、Teinture de fismes(タンテュール・ド・フィーム)という物質を加えていたとか。これはニワトコの実から造られたリキュールで、現在は使用が認められていません。

ヴーヴ・クリコの醸造家で、特にロゼを担当するシリル・ブラン氏。

ヴーヴ・クリコの醸造家で、特にロゼを担当するシリル・ブラン氏。

<クリコのロゼは3種類>

今日、ヴーヴ・クリコからリリースされているロゼは全部で3種類あります。ノンヴィンテージの「ローズラベル」、単一ヴィンテージの「ヴィンテージ・ロゼ」、そしてプレステージ・キュヴェの「ラ・グランダム・ロゼ」です。今回来日した醸造家のシリル・ブラン氏によれば、これらのロゼはすべてその白バージョン、つまり、「イエローラベル」、「ヴィンテージ」、「ラ・グランダム」とまったく同じアッサンブラージュの白ワインに、赤ワインを加えたものだそうです。

さて、試飲はまずシャンパーニュから始まりました。ローズラベルNV、ヴィンテージ・ロゼ2004、そしてラ・グラン・ダム・ロゼ2004です。

ローズラベルは鮮やかな赤銅色。香りも味わいも瑞々しくフレッシュで、赤い果実、とくにラズベリーとストロベリーのアロマを感じます。口に含むと香りと同様の新鮮な果実味にピュアな酸味。けっして何かが突出するわけではなく、このバランスの案配が、ヴーヴ・クリコは本当に上手だと思います。

ヴィンテージ・ロゼになると、趣がガラッと変わります。色調も進んでほんのりオレンジがかったサーモンピンク。香りは繊細ながらも複雑で、最初にフローラルなニュアンスを感じたと思うと、チェリーやグロゼイユのような赤い果実。そしてミネラルと絡み合うイーストの香ばしさ。グッと大人の世界に引き込まれますね。

ラ・グランダムはなんと表現すればよいのでしょう。具体的なコメントが無粋にさえ思えます。ピンクのローブを纏ったジャンヌ・ダルク。極めて力強く、高い集中度を保ちながら、どこか儚げな危うさを秘めています。このギリギリのせめぎ合いは、真に優れたシャンパーニュのプレステージ・キュヴェによく見られる傾向ですね。

<シャンパーニュ・ロゼ用赤ワインを試す>

そしていよいよ赤ワインの試飲です。今回、ブラン氏が用意した赤ワインは4種類あり、いずれも2012年のピノ・ノワール。2012年は量が少ない一方、質の高いワインが得られた年ですね。すべてグラン・クリュで、1つめはヴェルジー、2つめはアイ、3つめはブージィ、4つめはブージィにヴーヴ・クリコが所有する単一畑のクロ・コランです。

モンターニュ・ド・ランス北部にあり、北東向き斜面をもつヴェルジーの赤ワインは、そのフレッシュな酸と一直線な緊張感が印象的でした。続いて南向き斜面のアイになると、たしかに存在感ある酸味ながらも果実味が包み込む感じ。南向き斜面でなおかつ粘土がちなブージィになると、色も濃く、香りや味も濃密で酸味はおとなしい。クロ・コランはもう立派な赤ワインとして成立します。赤い果実というよりもブラックベリーやカシスといった黒系の印象が強く、マチエールがみっちりと詰まり、しっかりとしたストラクチャー。

クロ・コランを指してブラン氏が、「オークのニュアンスを感じませんか?」と聞いてきます。ああ、たしかにそんな感じ。「ところが、ヴーヴ・クリコでは赤ワインをいっさい樽熟成させません。それにもかかわらず、クロ・コランのピノ・ノワールにはいつも、なぜかオークのニュアンスが感じられるのです」

話が前後しますが、ヴェルジィとアイの試飲を終えたところで、ブラン氏が「ふたつを等量で混ぜてください」といい、出来上がったワインを試してみます。驚いたことに、複雑味とともに調和が生まれました。このヴェルジィとアイをアッサンブラージュしたピノ・ノワールこそ、ローズラベルに使われる赤ワインなのです。そしてブージィはヴィンテージ・ロゼ、クロ・コランはラ・グランダム・ロゼに加えられるワインでした。

クロ・コランの位置はここ。メゾン創立に先立ち、1760年にクリコ家が買った1.4ヘクタールの畑。

クロ・コランの位置はここ。メゾン創立に先立ち、1760年にクリコ家が買った1.4ヘクタールの畑。

「ヴィンテージやグランダムを造らない年には、ブージィとクロ・コランの赤ワインはリザーヴワインとして保管されます。ただし、ローズラベルにブージィの赤ワインを加える際は、注意が必要です。パワフル過ぎてバランスを崩してしまう危険があります。したがってこれを使うなら、料理でいえば、スパイス程度に留めることが肝要です」

メゾンによってはヴィンテージを造っても同じ年のロゼは造らなかったり、あるいはその逆の年があったりします。しかし、ヴーヴ・クリコではヴィンテージやラ・グランダムを造る年には、必ずロゼも造られます。

「ヴーヴ・クリコにとってとくに大切な品種はピノ・ノワールです。上質のピノ・ノワールが出来た年にヴィンテージをリリースするので、当然、よい赤ワインも出来上がるわけです」

ちなみにクロ・コランのコトー・シャンプノワをリリースしたり、単一クリュ、単一品種、単一年のブラン・ド・ノワール(ラ・グランダム”クロ・コラン”?)を造る気は、さらさらないそうです。

(text & photo by Tadayuki Yanagi)

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