ワイン&造り手の話

ボトル横

ボルドーで50年以上もの間、偉大なシャトーのコンサルタントを行ってきたエミール・ペイノー氏が、ラングドック地方でワイン造りを始める、という無名の若者に協力しようと決めたのは、なぜだったのでしょうか。この若者こそが、ラングドックで初めて偉大なワイン「マス・ド・ドマ・ガサック」を創り上げた、エメ・ギベールだったのです。

 

<マス・ド・ドマ・ガサックの誕生>

グラスエメ・ギベールが妻のヴェロニクと、ガサック渓谷にある一軒の農家を買い取ったのは1970年のことでした。その場所は、モンペリエから北西へ向かった海から30キロにあり、購入した150ヘクタールの土地の大半は森で、その中に小川が流れていたり、ブドウ畑があったり。昔からワイン用のブドウが栽培されてきた土地だとわかりました。

 

ただ、特にワインを造ろうとは思っていなかったようです。自宅用に農家を購入した翌年、ボルドー大学の地質学の教授アンリ・アンジャルベールが彼らを訪ねてきた時に、2時間ほど散歩に出かけました。そして彼が二人に告げたのは「とてもユニークな土壌を見つけたよ。ブルゴーニュのコート・ドールでしか見られない、赤く粉のように細やかな土壌だ。偉大なワインを生み出すことができる」という、驚くべき発見でした。ここから、彼らの偉大なワイン造りへの人生が始まったわけです。

 

1972年には、ボルドーのラ・ミッション・オーブリヨンからカベルネ・ソーヴィニヨンの苗木を譲り受けて10ヘクタールの植樹をしました。徐々に畑を広げて、2007年には合計で50ヘクタール。ただし、一枚の広大な畑ではありません。森の中に52区画の小さな畑が点在しているのです。これには、妻ヴェロニクのこだわりが影響しています。自然に敬意を表して、森をそのまま残すことと昔ながらの有機栽培をすることに固執したのです。人が飲むものだから、というだけでなく、母性が働いたにちがいありません。

 

反対にエメにもこだわりがありました。それは決して市販しているクローンを買わない、ということ。そして彼が愛する、忘れ去られたような古いブドウ品種を植え育てる、という点です。その結果、黒ブドウは25品種、白ブドウは24品種と、まるで標本のようなブドウ畑ができあがり、このドマ・ガサックから生まれるワインの複雑性を醸し出しています。。

 

<エミール・ペイノーとの二人三脚>

父エメ・ギベールの名代として来日し、ドマ・ガサックについて熱弁してくれた末息子の  さん。

父エメ・ギベールの名代として来日し、ドマ・ガサックについて熱弁してくれた末っ子のバジルさん。

ところが、エメ・ギベールは悩みます。醸造は独学だったので、誰か専門家に意見も求めたかったのです。アンリ・アンジャルベールに「偉大なワインが造れる土壌」だと聞いたエメが白羽の矢を射ったのが、かのエミール・ペイノー。世界的にも知られるボルドーの大御所です。ボルドーでもトップのシャトーばかりをコンサルタントしているペイノー教授が、当時は安価で量産型のワインの地だとしか考えられていなかったラングドックの無名の造り手からの誘いに、どうして応じてくれるでしょうか。

 

実際どのように説得したのかは知りませんが、相当情熱的なアプローチをしたのでしょう。ペイノー教授は2つの条件を守れるのなら、と受けてくれることになりました。ひとつは「報酬は一切いらない」、そしてもうひとつは「収穫時期には毎日午後9時以降に電話をしてくること」。つまり、仕事ではなくて余暇を使って支援する、ということでした。普通では考えられません。ワイン造りへの愛情、そのものの結果なのでしょう。

 

1978年から収穫を始め、初ヴィンテージができあがりました。すると間もなく、フランスの評価誌「ゴー・エ・ミヨー」からは「ラングドックのラフィット」、「ザ・タイムズ」からは「ラトゥールのようなだ」、イギリスのヒュー・ジョンソンからは「ラングドック唯一のグラン・クリュ」との絶大なる評価を受けたのです。

 

それから数年してペイノー教授はこう語ったといいます。「今まで50年以上も、偉大なシャトーのコンサルタントをしてきた。でも、みな100年もの歴史あるシャトーだった。今度は、偉大なワインの誕生を見ることができるのかもしれない、と思ってね」。

ボトル6本

<マス・ド・ドマ・ガサックのワイン>

ここのトップ・キュヴェ「マス・ド・ドマ・ガサック キュヴェ・エミール・ペイノー」は数量が限られ高価(希望小売価格/税抜25,000円)なので、なかなか手に入りません。でもいくつかキュヴェがある上、近隣の契約農家のブドウで造る手頃な価格のラインもあります。なんと1,200円! 赤はみずみずしくチャーミングで飲み心地がよく、白はアロマティックな香りが魅力的で、なめらかさも感じられます。スクリューキャップ使用なので、気軽に飲めるタイプです。赤でも冷やして美味しそうです。

 

看板の「マス・ド・ドマ・ガサック」の赤と白は、先ほどのたくさんの品種がブレンドされています。

白はアーモンド、ジャスミンのような花、スモーキーさ、洋梨などの香りが魅力的で、なめらかでバランスよく、口の中でも色々な品種の起伏があって飲んでいて楽しい感じ。あまり冷やしすぎないで、ゆっくり飲むとより満喫できそうです。

赤はスパイスやチェリー、ベリー系果実などの複雑な香りで、味わいがとても上品でなめらか! あまりにも上品なのでアルコール度数を見て驚きました。12.5%なのです。ラングドック地方の赤ワインは13、14、15といった数字をよく見かけます。

「すぐ後ろの山から吹く冷涼な風と、ペイノー教授からの教えの結果です」と、末っ子のバジルさん。ところで、赤ワインにはカベルネ・ソーヴィニヨンが90%もブレンドされています。地質学者さんの薦めだったのか? と聞いてみました。「父が決めたんですよ。ラトゥールが好きだったから!」(ちなみに母上のお好みの品種を聞くと、シラーでした)。

 

ということは、父上は「ゴー・エ・ミヨー」よりも「ザ・タイムズ」の評価のほうが嬉しかったのでしょうね!

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

クラシック カテゴリー 赤/白ワイン
ワイン名 ガサック・クラシック Gassac Classic
生産者名 マス・ド・ドマ・ガサック Mas de Daumas Gassac
生産年 赤2012/白2013
産地 フランス/ラングドック地方(ヴァン・ド・ペイ・ド・レロー)
主要ブドウ品種 赤/シラー主体+グルナッシュ、サンソー白/ソーヴィニヨン・ブラン+クレレット、ヴェルメンティーノ
希望小売価格 1,200円(本体価格)
輸入元/販売店 アルカン

 

ガサック カテゴリー 赤/白ワイン
ワイン名 マス・ド・ドマ・ガサック Mas de Daumas Gassac
生産者名 マス・ド・ドマ・ガサック Mas de Daumas Gassac
生産年 赤2011/白2012
産地 フランス/ラングドック地方(ヴァン・ド・ペイ・ド・レロー)
主要ブドウ品種 赤/カベルネ・ソーヴィニヨン90%+10種類白/ヴィオニエ、シャルドネ、プティ・マンサン、シュナン・ブラン+10種類
希望小売価格 6,000円(本体価格)
輸入元/販売店 アルカン

 

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