ワイン&造り手の話

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1974年の創業以来、その品質の高さから、わずか数年で、トップワイナリーの仲間入りを果たした「クエルチャベッラ」。その評価にあぐらをかくことなく、有機栽培、そしてビオディナミへと農法を変化させ、アクセルは全開。今もなお続くその進化とは?来日したセールスディレクターのジョルジョ・フラジャコモ氏とマーケティングディレクターのステファニー・クアドラ氏が、「クエルチャベッラ」の飽くことなき挑戦を紹介してくれました。

 

来日したセールスディレクターのジョルジョ・フラジャコモさん(右)とマーケティングディレクターのステファニー・クアドラさん。

来日したセールスディレクターのジョルジョ・フラジャコモさん(右)とマーケティングディレクターのステファニー・クアドラさん。

<実業家が夢を実現したワイナリー>

トスカーナ出身で、メキシコに渡り製鉄業で成功した実業家のジュゼッペ・カスティリオーニ氏は、1974年、故郷に戻り、念願のワイナリーを創業します。場所は、キアンティ・クラッシコのフィレンツェ寄りにあるグレーヴェ・イン・キアンティ村。当初は、わずか1haほどの畑でした。友人でもあったイタリアの名醸造コンサルタント、ジャコモ・タキス氏のアドバイスを受けながら生み出したワインは、高い評価を受けます。1981年には、スーパートスカンの「カマルティーナ」を発表。キアンティ・クラッシコのトップワイナリーに数えられるようになりました。

 

1990年代半ば、息子のセバスティアーノ・カスティリオーニ氏が、病の父にかわりワイナリーの運営にたずさわり、1988年からビオ(有機農法)に転換しました。「父は、最高の品質を備えたワインを造るためにワイナリーを設立し、息子は、偉大なワインを造るために環境整備が必要と考えた」と、フラジャコモ氏は表現します。

 

<有機栽培からビオディナミへ>

セバスティアーノ・カスティリオーニ氏は、次第にビオディナミ農法への興味を深めていきます。ビオディナミという言葉は、よく耳にされることと思います。有機栽培と同様に、農薬や化学肥料は使いませんが、宇宙から土壌まで、畑をとりまく環境すべてが、作物に影響すると考える点が異なります。ビオディナミで使用する有機肥料には、牛糞を牛の角の中に詰め、土中に埋めて熟成させたものなどがあります。有機栽培を10年ほど続けた後、カスティリオーニ氏は、2000年にビオディナミに転換します。

 

ビオディナミの導入に先立つ1990年代の終わりに、カスティリオーニ氏は、トスカーナ州南部のマレンマ地方の沿岸部に畑を購入し、キアンティ・クラッシコの畑より一足早くビオディナミでブドウ栽培を始めました。「キアンティ・クラッシコにあるクエルチャベッラの畑は、標高が高く、夏でも夜はセーターが必要なほど、気温が下がります。時には激しい雨が降ることもあります。一方、マレンマ地方は海に近く、標高は低いですが、緩やかな丘陵により海風から守られています。雨が少なく、日照にも恵まれ、キアンティ・クラッシコよりもヴィンテージのばらつきが少ないので、ビオディナミの実験場として適していました」と、フラジャコモ氏は、マレンマ地方への進出理由を説明してくれました。

 

2005年には、マレンマ地方のブドウから造った「モングラーナ」、2007年には、キアンティ・クラッシコとマレンマの両方のブドウを使った「トゥルピーノ」が、クエルチャベッラのラインアップに加わりました。現在では、27の品種を栽培しているそうです。マレンマの畑はまさしく、クエルチャベッラの研究所と言える存在でしょう。

 

<植物だけをベースにした新ビオディナミ>

ビオディナミへと舵を切ったカスティリオーニ氏の情熱は、とどまることを知りません。2008年から、植物だけをベースにした新しいビオディナミへと進化させたのです。「一切の動物由来の要素を排除し、すべて、植物をベースとしたものにしました」。その理由はと問われると、「セバスティアーノ(カスティリオーニ氏)がベジタリアンだから」。思わず、「えっ?」と聞き返したくなるような答えです。フラジャコモ氏いわく、「セバスティアーノは完璧主義の人」ということで、ベジタリアンという哲学と環境問題を突き詰めて考えた答えが、このような新ビオディナミになったそうです。

 

新ビオディナミでは、通常のビオディナミの有機肥料である牛の角も、動物のフンを使った堆肥も使いません。その代わりに、畑には30種類に及ぶ植物の種が蒔かれ、それぞれが重要な役割を果たしています。例えば、土壌に養分を与えるもの、土中の微生物を育むもの、天敵を寄せ付けない働きをするもの、受粉をすすめるためにハチを呼び寄せるもの、などです。「土中で微生物が働く、これは大切なことです。また、ぶどうの根が土中のより深くまで伸び、養分を吸い上げます。新しいビオディナミ農法を導入した後、健全で、土壌の特色がよく現れたブドウが収穫できています」と、フラジャコモ氏は、その成果を高く評価しています。また、醸造でも動物由来のもの、例えば清澄作業でよく使用される卵や乳製品由来のものはすべて排除したそうです。栽培から醸造に至るまで、すべてがベジタリアン、というわけです。

 

セミナー中のスライドより。ひと畝ごとに30種類ほどの種が蒔かれる。

セミナー中のスライドより。ひと畝ごとに30種類ほどの種が蒔かれる。

 

 

<ベジタリアンのワインの味わいは?>

mongranaモングラーナ 2009

Mongrana Maremma Toscana IGT/サンジョヴェーゼ50%、メルロ25%、カベルネ・ソーヴィニヨン25%

「2009年のモングラーナは異例です」とフラジャコモ氏。暑かった2009年のブドウは、フルーティさやエレガンスを表現したいカマルティーナには向いていないと判断されたため、カマルティーナ向けのブドウはすべて、モングラーナにまわされました。通常のモングラーナは、「シンプルで若いうちに飲むためのもの」ですが、この理由から、「2009年は、スーパートスカンのような偉大なワイン」に変わりました。

ブルーベリーなどの黒い果実やキャラメル、バターなどの明快な香り。滑らかに口の中に入り、余韻には少し甘味も感じられ、心地よく終わります。

 

chianticlassicoキアンティ・クラッシコ 2011

Chianti Classico DOCG /サンジョヴェーゼ100%

これまで、畑はワイナリーの本拠地、グレーヴェ・イン・キアンティ村のサンジョヴェーゼを使っていました。この場所は標高の高い丘陵地で、傾斜もきつく、繊細で上品なスタイルのサンジョヴェーゼが生まれます。これに、わずかにカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドして、キアンティ・クラッシコを造っていました。しかし、グレーヴェ・イン・キアンティ村以外に、少し南に位置するガイオーレ・イン・キアンティ、パンツァーノ・イン・キアンティ、ラダ・イン・キアンティという、キアンティ・クラッシコの中でも有数の村にも畑が拡大し、グレーヴェ・イン・キアンティのサンジョヴェーゼとは異なる個性を持つ良質のブドウを、量も十分に確保できるようになったそうです。このため、このヴィンテージから、サンジョヴェーゼ100%となりました。

チェリーなどの赤い果実味がきれいに感じられ、酸味が余韻にまで長く伸びていく。一言で表現すれば、ピュアで美しいと言えます。

ラベルにシェフが描かれているのは、食事に合わせやすいワインだから、とのこと。

 

Turpinoトゥルピーノ 2010

Turpino Toscana IGT/カベルネ・フラン40%、シラー40%、メルロ20%

マレンマとキアンティ・クラッシコのブドウのブレンド。シラーはすべてマレンマの畑で、日照に恵まれパワフル。カベルネ・フランは、キアンティ・クラッシコの標高の高いエリアからのもので、上品で繊細なスタイル。この2品種のつなぎの役割を果たすのが、両地区の畑からのメルロ。これらの品種を、細かく区画ごとにわけて醸造します。実に105ものロットをブレンドしたそのワインは、「最良のセレクションで生まれた傑作」という自信作です。多くのロットをモザイク状に組み合わせたため、ラベルのモチーフもモザイクを選んだ、とのこと。

口に含むと、突出した要素のない完璧なバランスが感じられ、「クエルチャベッラのワインの中でも、最も多彩な料理と合わせやすいワイン」という言葉を証明していました。

 

camartinaカマルティーナ 2010

Camartina Toscana IGT /カベルネ・ソーヴィニヨン70%、サンジョヴェーゼ30%

スーパートスカンの先駆けの一つ。「このようなワインを造るために、クエルチャベッラは生まれたと言えます」と、フラジャコモ氏は感慨深げ。クエルチャベッラの最高の3つの畑のブドウを使い、作柄の良い年のみ造られるもので、1989年、1992年、1998年、 2002年、2009年は造られませんでした。今でも楽しめますが、20年以上の熟成にも耐えるとのこと。

カシスやコーヒー、ロースト香に、少し時間がたつと、甘いカフェオレなど、香りがとても複雑。きめ細かいタンニン、しっかりとしていて力強いボディが印象的です。

 

batarバタール 2011

Batàr Toscana IGT/シャルドネ50%、ピノ・ビアンコ50%

トスカーナで最初にピノ・ビアンコを植えたのがクエルチャベッラで、1988年の初リリースから1991年までは、 ピノ・ビアンコを主体に、ピノ・グリージョをわずかにブレンドしていました。その後、増大する要望を反映してシャルドネを植え、現在はシャルドネとピノ・ビアンコのブレンドです。「シャルドネがエキゾチックなフルーツの印象とボディを与え、ピノ・ビアンコが、グレープフルーツのような柑橘系の果実やミネラル感を与えます」。

 

通常のテイスティングでは、白ワインが先で次に赤ワインですが、今回は、赤のあとに、この白「バタール」の試飲でした。酸味と複雑な風味が感じられる余韻が、力強く持続し、赤ワインの後に飲んでも、明確に個性が把握できる。故意に赤ワインの後に試飲させた意図がよくわかりました。

 

ベジタリアンなワイン造りだから、何かの特徴があるというのではなく、どのワインも高い完成度で仕上がっています。常に進化を追い求めるクエルチャベッラだからこその結果と言えるでしょう。ワインの味わいを体現しているかのような、エレガントなラベルのデザインも見逃せません。

 

<付記/キアンティ・クラッシコのオールド・ヴィンテージ>

キアンティ・クラッシコ・リゼルヴァ 1999

Chianti Classico Riserva

サプライズとして用意されたのが、このワイン。カシスなど黒い果実に、ロースト香、熟成を示す皮革やシガーもわずかに感じられ、とにかく香りが複雑。最も驚いたのは、15年という歳月を経ているにもかかわらず、果実感がまだ生き生きとしていて、余韻に、これからも熟成できることを思わせるしっかりとした酸味が感じられたこと。「このワインは、まだ若く、熟成の途上です」。秀逸なキアンティ・クラッシコの底知れぬ熟成能力を見せつけられました。

 

輸入元:フードライナー(価格はこちらのページでご確認いただけます)

(text & photo by Mari Yasuda)

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