ワイン&造り手の話

フランスのワイン醸造家が、新世界をはじめとする他国でコンサルタントをしてワインを造る、という話はよく聞きます。でも、反対に新世界の醸造家がフランスでコンサルタントをするのは、稀なことです。ニューヨーク生まれのカリスマ醸造家、ポール・ホッブスがフランスの南西地方でタッグを組んだ、というニュースが気になっていたのですが、ちょうどその相手先のワイナリーが「南西地方」のプロモーションで来日していました。

 

<フランス南西地方の独自性>

フランスの「南西地方」は「シュッド・ウエスト(あるいはシュッドゥエスト)」と呼ばれていて、ちょうどボルドーの東から南までに及ぶ広い産地です。ボルドーとラングドック・ルーションの間に挟まれている、というほうがわかりやすいでしょうか。南にはピレネー山脈があり、ボルドーへ向かうガロンヌ河が流れ、西には大西洋を臨み、東は直接地理的につながってはいないとはいえ地中海からの影響も受ける土地です。

 

美食の宝庫としても知られています。フォアグラ、鴨のコンフィ、カスレ、ニンニク、プラム、などなど。大西洋からの幸もありますが、どちらかといえば栄養価の高いもの、ついついワインが飲みたくなってしまう料理、肉食系の人が大喜びしそうな食事が多く、ある意味で危険地帯かもしれません。

 

ワイン産地としては、ボルドーやブルゴーニュのようにメジャーではありません。でもその反面、とても面白いワインが手頃な価格で求められる、という大きなメリットがあるのです。

面白い、というのは、独自のブドウ品種が多いからです。

この地方には、なんと130種類もの固有品種があるというのです。ただし、実際に現在使われているのは29品種。今「南西地方」で主要な品種とされている12品種を書き出してみます。いくつの品種に馴染みがあるか、ちょっとチェックしてみてください。

黒ブドウ:マルベック(コット、コ)/タナ/カベルネ・フラン/フェール・サルヴァドール/デュラス/ネグレット/プリュヌラール

白ブドウ:コロンバール/グロ・マンサン/プティ・マンサン/モーザック/ロワン・ド・ルイユ(ラン・ド・レル)

 

タナが主体のマディラン。右はシャトー・モンテュスの特別なキュヴェ「ラ・ティル」。

タナが主体のマディラン。右はシャトー・モンテュスの特別なキュヴェ「ラ・ティル」。

南西地方のブドウ品種が多様な理由は、3つあるそうです。

1)多くの山と大西洋に囲まれた、特殊な立地にあること。

2)今でも野生のブドウがたくさん存在しているということ(自然交配が起こるのでしょう)。

3)最後は歴史的背景です。スペイン北西部にある聖地サン・ジャック・ド・コンポステルへの巡礼路がちょうど南西地方も通っていて、巡礼で行き来する人々が様々なブドウや苗木をここに持ち込んだのでした。

 

例えば、タナを主体(100%も)とする赤ワイン「マディラン」はスパイシーで凝縮した香りで、とても力強くタンニンも豊かです。

ネグレットを主体とする赤ワイン「フロントン」は、甘草のような甘くフレッシュな香りにスパイシーさが加わり、軽快で爽やかな後味です。

グロ・マンサンを主体とした白ワイン「サン・モン」は柑橘類やネクターのような香りがして、まろやか且つフレッシュです。

 

<マルベック>

さて、カリスマ醸造家のポール・ホッブスですが、彼はニューヨーク生まれでカリフォルニアで醸造家としての息吹を上げた人物です。一度東京で会ったことがあるのですが、とても気さくな人でした。アルゼンチンワインの底辺を上げるのに大きく貢献したこともあり、南北アメリカを通してとても有名コンサルタントです。

 

ジョルジュ・ヴィグルーの輸出部長、スアヴェ氏。

ジョルジュ・ヴィグルーの輸出部長、スアヴェ氏。

ところが、彼がフランス南西地方でコンサルタントしたワインがリリースされたというのです。「ジョルジュ・ヴィグルー」という「カオール」地区にあるワイナリーとのジョイント・ワイン「クロッカス」ができたのです。

 

カオール地区といえば、主要品種がマルベックです。それが海を渡ってアルゼンチンで花咲きました。今ではマルベックは、アルゼンチンの赤ワイン用の品種としての認知度がとても高くなっています。

 

「ジョルジュ・ヴィグルー」は、カオールに3つのシャトーを所有する4世代続く家族経営のワイナリーです。そしてジョルジュの息子、ベルトラン=ガブリエルは、マルベックのスペシャリストとして有名な人物です。

片やポール・ホッブスは、アルゼンチンで多くのプレミアム・マルベックを生み出してきた人物です。

 

ジョルジュ・ヴィグルーの「シャトー・ド・オート・セール イコン2009」。残念ながら未輸入です。

ジョルジュ・ヴィグルーの「シャトー・ド・オート・セール イコン2009」。残念ながら未輸入です。

「ベルトランは、アルゼンチンもよく訪れていました。そこでポールに会う機会があって、是非カオールにもマルベックを見に来てほしいと言ったところ、2009年に初めて訪問してくれました。それからコンサルタントの契約をして今年でもう6年目。2011年ヴィンテージから『クロッカス』とプレミアムの『クロッカス グラン・ヴァン』を、まずは北米から販売開始したところです。」と、輸出部長のジャン=マリー・スアヴェ氏。

同社が所有する3つのシャトーのマルベックを、厳選して使うことにしたようです。ちょうどカオール地方がサフランの名産地なのでその花の名前「クロッカス」と命名したということでした。

 

「クロッカス」の上級品と同じクラスにあるという、同社の「シャトー・ド・オート・セール イコン2009」の味見をしたのですが、紫色の花、スパイス、黒い果実が香る、緻密でエレガントで力もある、素敵な赤ワインでした。

 

南西地方は、まだ色々な発見がありそうな、ワクワクさせてくれるワイン産地ですね!

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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