ワイン&造り手の話

フランコ・ダナホドルスクリーク・エステートのワインメーカー、フランコ・ダナFranco D’Anna 氏が来日! スタンダード・キュヴェの「かえる」マークのラベルが印象的なだけでなく、コストパフォーマンスが抜群でびっくりしました。かのジェームス・ハリデー翁も彼の情熱を大きく評価しているようですよ。

“Every year I marvel at the mouthwateringly low prices of the Hoddles Creek Estate wines, disbelief compounded by their sheer quality.” By James Halliday, 2014
「今日、このセミナーを受けてもらえば、ジェームス・ハリデーのこの言葉の意味がわかってもらえると思います」と、試飲セミナーの冒頭にこういったフランコ・ダナさんですが、確かに納得しました。それから、自信満々に聞こえるかもしれませんが、自慢というよりは、自負というのでしょうか。できる限りのことをすべてし続けている証が彼のワインだ、ということだと理解できたように思います。
どんな内容だったのか、お伝えします。

 

フランコさんは、もともとワインの世界に入ろうとは思っていなかったようです。偶然2週間ほどぶどう畑で仕事をすることになり「それ以来離れられなくなってしまいました。畑の仕事は、仕事というよりも趣味に近いかもしれない。それだけ好きで熱中できるのです」。
本当に好きで好きでしょうがないようです。

アッパー・ヤラ・ヴァレーの位置関係を説明するフランコさん。

アッパー・ヤラ・ヴァレーの位置関係を説明するフランコさん。

<アッパー・ヤラ・ヴァレー>
1997年に設立で、ヴィクトリア州ヤラ・ヴァレーの中でも標高が高いアッパー・ヤラ・ヴァレーにある、ホドルス・クリークという場所に土地を購入したことから始まります。
「当時は、やっとぶどうが熟すかどうか、という場所でしたが、気候変化によって今はシャルドネとピノ・ノワールに最適な場所になりました」とフランコさん。
ヤラ・ヴァレーの中でも、ローワー・ヤラ・ヴァレーでは、より柔らかく、フルボディのワインができあがる。酸は得られるが、どちらかといえばカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーに合う、という意見です。
反対にアッパー・ヤラ・ヴァレーの場合には、ぶどうはきちんと熟すが、より涼しい環境にある。日中は充分に温度が上がるが、朝晩の気温が低いため香り高いワインできああがる。ホドルス・クリークの畑は標高250〜350mの地にあり、熱波に襲われることはないようです。

土壌については、うちの畑は灰色の土壌で、隣の赤い火山性の土壌のように肥沃ではない、といいます。「表土は、粘土質というよりは鉄分を含む石が多いため、水はけがよく、その30cmほどの表土の下は粘土を含んでいます。年々雨が少なくなっているので、この保水性ある土壌は役立っています。灌漑に頼らなくても維持できています」。
これらによって、よりデリケイトでストラクチャーがあるワインができるといいます。

ぶどうは2月中旬にピノ・ノワールを、4月にはカベルネ・ソーヴィニヨンの収穫を行います。16年前には4月に収穫を開始して5月に終了していたことに比べると、随分早くなっていて、これは、単純に気候の変化だけでなく、造るワインも変化したからだと自覚しているようです。ヤラ・ヴァレー全体で収穫期が早くなっているようです。よりエレガントなタイプのワイン造りへ移行しているということがわかります。

GREY SOILと書いてある部分にホドルス・クリークの畑がある。下方はギップスランド。左端あたりがヤラ・ヴァレー。

GREY SOILと書いてある部分にホドルス・クリークの畑がある。下方はギップスランド。左端あたりがヤラ・ヴァレー。

例えば、昔はオープン・キャノピーにしていたところを、今ではより日光の影響を受けないようにマネージメントしているところが多いようです。

「でもうちは、比較的涼しい場所なのでアドヴァンテージがあります」。
ホドルス・クルークでは、ギュイヨー仕立てを採用しています。機械化はできないけれど、芽と芽の間が広いので空気の流れがよい風通しがよく、病気になりにくいこと、そして樹勢のコントロールもできるので、ちょうどよいのです。17万本のぶどうを3名で3か月かけて行うといいます。

「また、ここ5年間での大きな進歩は、除草剤を使わなくなったことです。昔は11月頃に草にスプレーしていました。でもある年に、まき忘れたのです。そうしたら、その結果がよかった! 草が土を自然に分けてくれて空気が含まれるようになりました。それまで、水が入っていけないほど堅くなっていた土が、柔らかくなり、水をきちんと土壌が吸い込み、その後流していく、ということがわかりました」。
今では除草剤を全く使用していません。シチリア島のエトナでの研修においても、同様のことを多く学んできたそうです。

 

<試飲したワインたち>
*プルミエ ピノ・ブラン2011
熟した白果実のアロマティックな香りで、マスカットやリンゴ系の香りも。口中はとてもタイト。酸が高く、レモン的。2011年の涼しい気候を反映していました。
ピノ・ブランは1997年に植樹されたもので、ワインとしてのリリースは2008年から。オーストラリアで初めて植えられたピノ・ブラン。
「当初はシャルドネとブレンドしていて、2008も瓶詰めする予定はありませんでした。でも友人のトム・メイヤーがやってきて『なんだよ、リリースしろよ』と言うので決めました。アロマというより、ミネラルとストラクチャーにフォーカスしたワイン」。
「プレスして、ステンレスにて低温で4−5日休ませる(エンザイムなし)。それでも果汁はまだ濁っている。オーストラリアでは、完全にクリアーにして酸化を防ぐのが一般的だが、イタリアなどでは果汁の段階で酸素に振れさせることで酸化防止になるという考え方。だからうちでは、清澄剤もエンザイムも、補酸もなし。古い樽での発酵(テクスチャーを得るため)とステンレス発酵(緊張感を保つため)を半々。自然酵母で温度管理もしていない。25年熟成できると思っている」。

 

*シャルドネ2014
パイナップルなど熟した果実の香り。厚み、豊かさを感じる。なめらかなアタックで、口中もオイリーさがあり、リッチ。酸もしっかりしているため、後味はとても爽やかな酸の余韻が残りました。
「10-11か月樽熟成。3か所のブロック(クローンはそれぞれ6種類)からのブレンド。2014年は量が少なかったので、凝縮した年。クラシカルな年だった。複雑さもある。タンクで少し休ませて、1、2年目の樽に入れておくと発酵が始まる。何もしない。繊細な年だったから、新樽は使わなかった。樽の風味もちょうどよいと思っている」。

 

*プルミエ シャルドネ 2013
ほんのりバニラ香が感じられる、閉じ気味の香り。果実はよく熟してパイナップルに近い。なめらかなアタックが心地よい。食感がとてもなめらかでリッチ。酸もとてもフレッシュ。若々しく、生き生きしている。飲みごたえもあり充実した味わいでした。
「2013年は3、4種類のクローンをブレンドした。最初はピノ・ノワールを植えていたが、2003年にシャルドネに植え替えたブロック。12か月樽で熟成し、6か月タンクで休ませる。2回冬を越すのがとても重要だと考えている。マロラクティックはしていない。フィルターをかけないのはリスキーだけれど、それもしない。酸のレベルが高いので、安定している」。

 

*ピノ・ノワール2014
果実のフレッシュ感が心地よい香り。バランスよい香り。フレッシュで、ピュアな果実味が心地よく、ほどよい軽快感。タンニンはそれほど多くなく、とても細やかで繊細。後味に赤い果実の余韻が残る。香りだけでも満足感が高いピノ・ノワールです。
「アッパー・ヤラの特徴が出ている。繊細なタンニンで、厳しさはまったくない。タンニンの出方は毎年異なる。2013年は、とても簡単にタンニンが抽出できたが、2014年は難しかった年。

 

*プルミエ ピノ・ノワール2013
若々しい香りで、まだ閉じている。赤い果実やなめし革など、少しずつ開き始め、少しカラメル風味も出てくる。とてもなめらかな舌触りで、酸も適度。タンニンは豊かだが、細やかでじわじわと出てくる感じ。バランスが心地よい。ここのピノ・ノワールにはジャミーな感じがまったくありません。
「リリースして4時間で売り切れてしまった。この前の2014年のピノ・ノワールは発売直後に完売した。2013年は意図的に収穫量を35%減らした(プルミエとして選ぶ樽の数を少なくした)。品質を上げるためだった。よい樽もあったけれど、多くはエステートに落として、最高のもののみを残した。全房発酵のものはすべてプルミエに入っている。プルミエのうち25%全房。”SRM”ブロックのピノ・ノワールが北向き斜面で(午後、茎がよく熟す)、ここを全房で仕込む。これで、きめ細やかなタンニンを得られる。12か月樽熟成、6か月ステンレスで休ませる」。

 

フランコさんの話を聞き、ワインを試飲して、冒頭の彼の言葉を思い出しました。まさに、その通りです。

「ぼくは、まだ学び続けているところで、この旅に終わりはないと思っています」という言葉でセミナーを締めくくりました。

この謙虚な姿勢が、とても清々しく感じられました。これからもコストパフォーマンスの高い、美味なワインを造り続けてほしいと思います!
(輸入元:kpオーチャード)
(text & photos by Yasuko Nagoshi)

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