美味しい生活

2015年7月にオープンした「森臥」のセラードアは、水道が通っていない地域だったので井戸掘りから始めたとか。Photo by miwa yamamoto

2015年7月にオープンした「森臥」のセラードアは、水道が通っていない地域だったので井戸掘りから始めたとか。Photo by miwa yamamoto

 

北緯44度、東経142度。

夏はプラス30度を超し、冬はマイナス30度を下回る。
早ければ10月初旬には初霜が降り、下旬には初雪、そして遅ければ4月下旬まで雪が残る名寄市に、日本最北のブドウ栽培と自らの葡萄100%で造るワイン「森臥(しんが)」が誕生しました。

オーナーは竹部ご夫妻(夫:裕二さん、妻:麻理さん)で、裕二さんは超日本酒好き、麻理さんは古くから農業を営む生粋の(ブドウじゃない)農家。一見してワインとは無関係なお二人が、ワインとは無関係だった名寄市にミラクルを起こしたのです。

春先にタンポポの絨毯で覆われたセラードア前のヴィンヤード。これを見に来るのだけでも価値があると思いませんか?Photo by miwa yamamoto

春先にタンポポの絨毯で覆われたセラードア前のヴィンヤード。これを見に来るのだけでも価値があると思いませんか?Photo by miwa yamamoto

 

事の発端をかいつまんで話すと、そもそも麻理さんが大のワイン好き(これ以上の理由は必要ありませんね)。
20年程前、「いつか私が結婚出来たら葡萄を植えよう!」と夢に見ていたら裕二さんと結ばれ「波瀾万丈葡萄人生劇場」が開幕したのです。

僕の知る限りでも色々な事件が起りました。
それら全てを書くと一冊の本が出来上がってしまうくらい、濃い葡萄人生劇場。
2400本のブドウの樹が全てダメになって焼却処分(これは後から聞いた)、裕二さんが大怪我し長期入院(この時は本当に死んだか、一生ものの障害が残るのでは思ってましたが、数ヵ月後に笑顔で肉屋に現れた彼を見てスーパーマンとダイ・ハードの映画を連想しました)。

 

既に全量完売してしまったので早々にセラードアはクローズしてしまいましたが、次のヴィンテージの為に覚えておいて下さい。Photo by miwa yamamoto

既に全量完売してしまったので早々にセラードアはクローズしてしまいましたが、次のヴィンテージの為に覚えておいて下さい。Photo by miwa yamamoto

 

 

過去に事例がないであろう日本の低温地域での栽培、様々なアクシデント、それら全てを「笑顔」でクリアしてきたスーパー夫婦。
夢を持ち、優しさと強さに満ちあふれた「ファーマー」が育てたブドウから造られたワインがこの程(7月11日)リリースされました。

天塩川流域にあるわずか1.3ヘクタールほどのヴィンヤードからは700本分の「バッカス」とわずかの「小公子(80本))、ワインメイキングは(まだ醸造免許はないので)「10R(トアール)ワイナリー」のブルース・ガットラヴさんという布陣でファーストヴィンテージがスタート。

ワインのエチケットを描いたのは、麻理さんの妹「美和」さん。

ワインのエチケットを描いたのは、麻理さんの妹「美和」さん。

 

ワインのエチケットを描いたのは、麻理さんの妹「美和」さん。

 

今回、この記事に掲載されている写真の殆ども美和さんが撮影したものをお借りしました。

「森」は葡萄の葉が生い茂る様子、「人」は霜予防をしている麻理さん、そして暗闇に光る「月」。
霜が降りるであろうと予測される日の夜中、葡萄畑で60個の缶に火をつけブドウに暖をとらせている様子を油絵で描いています。

きっと、どの生産者もブドウに暖をとらせることはしていないでしょうが、この作業なくして「森臥」の葡萄栽培はありえません。名寄で葡萄を作る「森臥」のブドウ作りならではの光景を描いています。

 

ご家族はもとより、沢山の人達に支えられ生まれた森臥のファーストヴィンテージは、みんなにとって特別なワインなのです。

竹部ご夫妻に初めてあってから何年経ったかはもう忘れましたが、ついに二人が育てたブドウで造ったワインを口に運ぶ日が来ました。

竹部ご夫妻に初めてあってから何年経ったかはもう忘れましたが、ついに二人が育てたブドウで造ったワインを口に運ぶ日が来ました。

 

さて、リリース日から遅れること1ヶ月後(出張続きだったので)、「森臥」のワインを竹部夫妻と一緒に楽しめる日がやってきました。

僕らと同じ土、空気、水で育まれたブドウから出来たワインですから、不思議なほどに体にすっと入っていく、まさにこの土地の人達の為のワイン!

さらに、僕にとって大切な「フードフレンドリー」であることを森臥のバッカスは満たしてくれます。
霜が降りる季節が早い地域なので完熟する前に収穫するから香りは控えめな分、酸がしっかり。

 

軽いフィルタリングだけで瓶詰めされているので、ボトルの底には細かなオリがたまり、益々飲み手側(僕)を盛り上げてくれます(笑)。
食事と一緒に楽しめるワインをお探しの方ならばハマってしまうこと請け合いです・・・が、ぐびぐび飲めて後を引く危険性を含んでいますのでご注意を(その夜は試飲会にも関わらずグラス7杯飲んでしまった)。

 

 

日本酒を注ぐのは上手だけど、ワインを注ぐのはまだまだぎこちない(笑)栽培家の裕二さんが慣れない手つきでみんなにサーヴしてくれた1杯目はもう二度とない最高の1杯目。

日本酒を注ぐのは上手だけど、ワインを注ぐのはまだまだぎこちない(笑)栽培家の裕二さんが慣れない手つきでみんなにサーヴしてくれた1杯目はもう二度とない最高の1杯目。

 

この記事を読んで飲んでみたいと思われたかたゴメンナサイ。

 

嬉しくもあり残念でもあるのですが、700本のバッカスはリリース当日にセラードアで完売。せっかく建てた真新しいセラードアの営業は僅か1日で潔く終了し、次のヴィンテージへ向け今年のブドウを育てています(たまにみんなで昼飯食べるために使っているとか)。

 

なので、飲んでみたいという方のリクエストには竹部夫妻もお応えできませんが、運が良ければ北海道内のどこかのワインバーなどで見つけることが出来るかも知れません。

 

ワイン造りを夢見て20年。

 

30本のシャルドネから始まり、ピノノワール、ケルナー、ツバイゲルトレーベの夢は一度敗れたものの、それにも負けず歩んできたご夫妻の次の夢はなんだろう?

 

次に飲み会するときに聞いてみよう。

裕二さん、麻理さん、ありがとう!

(text & photo by Moriaki Higashizawa)

カテゴリー セラードア
店名 森臥(しんが)セラードア
住所 〒096-0074 北海道名寄市弥生674番地
最寄駅 JR名寄駅から車で約15分(約6.6km)
電話など 01654-3-2400
営業時間 全てのワインが売り切れてしまったので営業を終了しています
定休日 同上
URL ホームページ
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