ワインと料理

魚介類をワインと美味しく食べたい!

ワインを美味しく飲むには、食べ物や料理の存在は必須です。より美味しい組み合わせを探そう! とするのが常ですが、実はあまり嬉しくない組み合わせを回避することはとても重要なポイントです。中でも、魚の生臭さが出てしまった時には相当悲しい思いをしますよね。そこで、数年前に魚介とワインの組み合わせで生臭さが発生するメカニズムを解明された、メルシャンの研究者、田村隆幸さんにお話を聞いてみました。

1)原因物質

まず、魚の生臭さが発生する原因は、ワイン中に含まれる鉄イオンだとわかりました。鉄イオンには2種類あり、そのうち「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」がその原因物質です。一般的に飲み物中にはもうひとつの形「鉄(Ⅲ)イオン(Fe3+)」で残る場合が多く、ワインやビールの場合には「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」のほうが多いようです。

2)発生のメカニズム

では、一体その鉄イオンが何をするのか? 魚介類にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)と呼ばれる脂肪酸が存在しています。いずれも特に青魚に含まれている必須脂肪酸で、「魚サカナさかな〜、魚〜を食べ〜ると〜♪あたま・・・♪」というフレーズでもお馴染みになりましたよね。あれです。これが、酸化すると過酸化脂質へ変化してしまいます。

魚介の過酸化脂質と「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が反応すると生臭み成分=(E,Z)-2,4-ヘプタジエナールが瞬時に発生します。つまり、過酸化脂質が含まれる魚介類を食べた後、「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が存在するワインを口に入れると生臭みが発生して、それが鼻へ到達して「しまった!」と感じるわけです。

魚介類をワインと美味しく食べたい!

魚介類をワインと美味しく食べたい!

3)生臭みを回避する方法A 〜過酸化脂質が少ない食材を選ぶ〜

回避のために一番よいのは、過酸化脂質が少ない魚介を選べばよい、ということになります。ちなみに、これらの解明のために最も効果的だとして使われた食材は帆立の干物。相当多くの魚介類でトライアルを重ねた結果、これが一番生臭さが出やすいということなので、実験された方々はお仕事とはいえ、忍耐の一文字ですね。。。

ただ同じ帆立でも、生よりも茹でたもの、更には干したもののほうが生臭みは強くなったそうです。つまり、干物を代表とする酸化した魚介は危険だ、ということになります。ただし、すべての干物で生臭さが出やすいわけではなく、ビタミンCに漬けて冷風・温風処理などした酸化を回避した干物は過酸化脂質が少ないようですから、より安心です。残念ながら、本格的な天日干しは危険性が高いということですね。

4)生臭みを回避する方法B 〜「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が少ないワインを探す〜

では、ワイン選びで回避が可能かどうか? 田村さんのお話から、ある程度可能性があるとわかりました。要は「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が少ないワインを探せばよいのですが、それは裏ラベルに書いてあるわけではないので、ちょっと難問です。でも、ヒントをいただきましたので、それを元にいくつかの可能性を探って分類してみました。

*ワインに鉄分が取り込まれていない可能性の高いワインを選ぶ

甲州が「和食に合う」といわれる理由のひとつがわかりました。

甲州が「和食に合う」といわれる理由のひとつがわかりました。

ワイン中に存在する鉄分は、色々な形で取り込まれている可能性があるようです。例えば、ブドウが土中から取り込む、土埃中の鉄分が果皮に付着してそのまま持ち込まれる、ワインは酸が強いので醸造に使用される容器の鉄分が溶け出る、などと可能性は多いようです。

ただ、実は日本の甲州ワインには鉄分含有量が少ないことがわかっています。これは、甲州の大半が棚仕立てで栽培されているため土から離れた位置に房が実るので、いわゆる土埃中の鉄分が果皮に付着する可能性が少ないから? など、仮説が立てられるようです。

きちんとした要因が特定できたわけではありませんが、甲州ワインは実際に和食との相性がよいとされていますから、選ぶべき白ワインのひとつに挙げられます。

カ・デル・ボスコは魚介類に最適ですね。

カ・デル・ボスコは魚介類に最適ですね。

もうひとつは、イタリアのフランチャコルタのリーダー的存在の「カ・デル・ボスコ」。なぜかというと、ここでは2008年の収穫から特別なブドウの洗浄システム「ベリースパ」(気持ちよさそうな名前ですね)を導入して、ブドウの果皮に付着した金属類を軽減させてから醸造する、というシステムをとっているからです。実際に、果皮に付着した鉄分は半分以下になった、という結果が出ています。

他に、ブドウを洗浄してから使っているワイナリーを今のところ聞いたことはありません。ただ、ブドウの粒を選別するために比重を利用する機器があり、その場合は糖分を入れた液体に一度粒を入れるようです。その場合は果皮の付着物が多少除去される可能性はあるのかもしれません。ただ、目的が洗浄ではありませんから、効果のほどは不明です。

*ワイン中の鉄分が減少しているだろうワインを選ぶ

田村さんの研究中に、もうひとつ面白いことがわかったといいます。発酵を終了すると酵母は仕事を終えて死に絶えるのですが、それを「澱」とか「リー」と呼んでいます。その酵母の死骸をそのままにしておくと、ワイン中の鉄分が少なくなったそうです。その原理を研究したところ、アルコールに浸漬させて死に絶えた酵母を果汁やワインに添加すると、液体中の鉄が酵母の中にからまって澱のように落下することがわかったそうです。

ということは、澱と長く接触しているワインは、鉄分が減少しているという仮定が成立ちます。つまり、いわゆる「シュール・リー」で造られたワイン、シェリーはもちろん、シャンパーニュを含めた、瓶内二次発酵後の長い瓶内熟成をさせたスパークリングワインは、それにあたります。

とすれば、先ほどの「カ・デル・ボスコ」はここでも有力候補となります。それから、先ほどの「甲州」白ワインの中でも「シュール・リー」製法をとったものも、同様に有力候補となります。

そこで、「シュール・リー」をした「シャトー・メルシャン 勝沼甲州」と、「カ・デル・ボスコ」の「キュヴェ・プレステージ」で、実際に帆立貝干し貝柱で実験してみることにしました。

いずれも、生臭みはまったく出てきませんでした。大成功!

ちなみに、3年以上の瓶内熟成を経たシャンパーニュも、全く問題なく生臭さゼロでした。でも、瓶内二次発酵されたスパークリングワインでも数ヶ月のみの熟成のものは残念ながらバツでした。またフレッシュ&フルーティーな極々若い白ワインでも何度か失敗。皆さんも色々試してみてはいかがでしょうか。

*既に酸化した状態のワインを選ぶ

もうひとつの方法は、最初の鉄イオンの話にもどります。既に酸化しているワインの場合には「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が酸化された形の「鉄(Ⅲ)イオン(Fe3+)」として存在します。ですから、生臭い成分は発生しません。例えば、スペインのシェリー、ポルトガルのマデイラ、イタリアのサルデーニャ島のヴェルナッチャ・ディ・オリスターノ、フランスのジュラ地方のヴァン・ジョーヌなどがそれにあたります。確かに、マデイラワインの特に辛口タイプは刺身を含めて魚介類と抜群の相性だというのをここ数ヶ月で何度も経験しています。また、ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノが通常はワインと極相性の悪い魚卵系のひとつであるカラスミと好相性だということは、イタリアでも昔からよく知られている事実です。

5)生臭みを回避する方法C  〜調理法で回避する〜

アサリやタラからの出汁も出て、あっさり美味しい蒸し物に。

アサリやタラからの出汁も出て、あっさり美味しい蒸し物に。

「でも、ワインを選ぶのも面倒だし、食べている最中に生臭みが出てしまったらいやだなあ」という場合には、あらかじめ調理段階で生臭みの発生を回避する方法があります。これも田村さんに教えていただきました。

魚介類に火を入れることで、熱エネルギーの作用で過酸化脂質が減るそうです。だから、焼く煮るという調理そのものが、マルというわけです。「魚介類のワイン蒸し」というのはその典型で、魚介の過酸化脂質とワイン中に存在する「鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)」が鍋の中で反応して、生臭み成分=(E,Z)-2,4-ヘプタジエナールを発生させて蒸発させてしまう、というのです。そうすれば、料理が仕上がった時には絶対安心!

6)生臭みを回避する方法D  〜調味法で回避する〜

では最後に、「でも、生魚だって食べたいし、干物も天日干しが食べたいんだけれど、、、」と思っていらっしゃる方へ。万が一、食べている最中に生臭みが出てしまったら、ワイン飲むの我慢するしかないの? と思っていらっしゃる方々にも朗報があります。

ひとつは、オリーブオイルなどの油脂類を調味料として使うこと。実際、干物を食べながらワインを飲む時に、ちょっと生臭くなったのでオリーブオイルを少々振りかけたら生臭みがマスキングされた経験があります。そこには理由がありました。

香りや臭い物質のほとんどが脂に溶けやすいそうです。そういえば、アロマオイルってありますよね。あれもオイルの中に香りのエキスが入っているわけです。そして、例えばワインで生臭みが出た干物にオリーブオイルをかけると、臭い物質が脂に溶けて、それは口から喉へとおりていきます。だから臭いが鼻まで飛んでこないのだと! なるほど〜、と思わず手を打ってしまいました。

そしてもうひとつの方法は、これも経験された方があるかと思いますが、レモンなどのクエン酸系、あるいは酸の高いワインそのものを調味料として使うこと。これは、鉄をキレート化するのと似た効果があるようです。つまり、ワイン中の鉄イオンを包み込むことで、その効果を下げるのです。クエン酸は完璧ではないにしても効果ありとのことです。

ワインの例は他にも色々探せると思いますので、ヒントを是非活用して、美味しいワイン・タイムをお楽しみください。

もうちょっと詳しく知りたい、という方は是非こちらを。田村さん、ありがとうございました!

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

カデルボスコ

カ・デル・ボスコは魚介類に最適ですね。

 

甲州が「和食に合う」といわれる理由のひとつがわかりました。

甲州が「和食に合う」といわれる理由のひとつがわかりました。

カテゴリー 白ワイン
ワイン名 勝沼 甲州 シュール・リー
生産者名 シャトー・メルシャン
生産年 2012
産地 日本/山梨県/勝沼
主要ブドウ品種 甲州
希望小売価格 オープン価格(1,000円台)
販売元 メルシャン

カ・デル・ボスコは魚介類に最適ですね。

カ・デル・ボスコは魚介類に最適ですね。

カテゴリー スパークリングワイン
ワイン名 フランチャコルタ ブリュット キュヴェ・プレステージFranciacorta Brut Cuvée Prestige
生産者名 カ・デル・ボスコ Ca’ del Bosco
生産年 NV
産地 イタリア/ロンバルディア州
主要ブドウ品種 シャルドネ主体+ピノ・ビアンコ、ピノ・ネロ
希望小売価格 4,830円
輸入元/販売店 フードライナー
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