ワイン&造り手の話

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ロワール河から6キロ南にあるアンビィユー・シャトーという村に、ブルゴーニュの大御所として知られるドメーヌ・ルフレーヴの当主アンヌ・クロード・ルフレーヴが所有する「クロー・ド・ネル」というワイナリーがあります。一度、来日されたアンヌ・クロードさんに会ったことがありますが、率直な物言いで眼力(めぢから)のある、独特のオーラというか迫力のある女性だったことをよく覚えています。ルフレーヴがブルゴーニュ以外でワイン造りをしているのは、ここだけではないでしょうか。ならば、なぜロワールだったのでしょう。

 

<アンヌ・クロード・ルフレーヴが購入し、新体制に>

理由のひとつは、栽培方法にあるということはわかっていました。ドメーヌ・ルフレーヴでは、90年代前半からビオディナミ(バイオダイナミクス)を採用しています。自然のリズムに敬意を表して、自然を守るべく、という目的意識だけでなく、もちろん品質がより高くなったことから、フランス内外の多くの造り手にも影響を与えたことで知られています。

 

そして、ここ「クロー・ド・ネル」も2000年からビオディナミで栽培を始め、ドメーヌ・ルフレーヴと意志をともにする仲間のワイナリーのひとつとして、共にプロモーション活動をしていたのです。

 

ところが、詳しい事情はわかりませんが経営がうまくいかなかったようで、2008年の6月にアンヌ・クロード・ルフレーヴが前オーナーから購入しました。現在、栽培と醸造の一切を請け負っているシルヴァン・ポタンが着任したのが2009年の9月のことです。今年7月に、シルヴァンに会ってきました。

 

クロー・ド・ネルを訪問しようとするのは、至難の業かもしれません。周辺にワイナリーがなく、近くに立てかけてある看板もとっても小さいから、見つけにくいのです。畑の真ん中に立つと分かるのですが、森とリンゴ畑に囲まれた南向きの緩やかな斜面にあり、西から心地よい風が常に吹く風通しのよい立地にあります。シルヴァン曰く「北からの雨雲は、ロワール河で遮断してくれるから、ここにはこない」のだといいます。近隣には「一カ所だけ1ヘクタールのブドウ畑があるだけ」で、森に囲まれて生物の多様性があり、雨が少なく風通しがよい。まさにビオディナミにはうってつけの場所だと、判断したのでしょう。

 

<2009年以降の変化>

現地を訪問する前に、2009年、2010年、2011年のいくつかの銘柄を試飲する機会がありました。すると、2009年と2010年はとても濃くて力強く、どちらかといえば味わい美人タイプ。とてもスパイシーで強いので、時間をかけて飲みたいタイプでした。鰻の蒲焼きに山椒をたっぷり振りかけて食べるのを、別の記事でお薦めしましたが、そのぐらいの強さがあります。ところが、2011年は性格が異なり、ボリューム感はあるけれど2009や2010ほど濃いわけではなく、反対に香りが華やかなタイプでした。

 

一体何が変わったの? これが今回の訪問で一番知りたかったことなのです。

 

シルヴァンは、南仏やチリ、そしてロワール地方のビオディナミの生産者何軒かで仕事をしてきた人物です。その彼が2009年に到着した時に、ブドウの樹はどれもゴブレ(株仕立て)だったといいます。カベルネ・フラン、グロロー、カベルネ・ソーヴィニヨンのうち、メイン品種のカベルネ・フランについては仕立てをギュイヨーに変え、風通しをよくしたり、樹高を高めにして光合成をより効率よくできるようにしたり、まずは畑の手入れに精を出したといいます。

 

すると、ブドウとしては身体の形を変えられたり環境が変化するわけですから、あまり心地よくはなかったのでしょう。ストレスで収穫量が激減したのです。「夏が暑くて力強い年」だった2009年は5〜8hl/ha。「バランスのよい年で、凝縮感が得られた」2010年で10〜12hl/ha。どちらも、あまりにも少なくて驚きます。

そして2011年は「土の状態も落ち着き、剪定もきちんとできたので、畑のバランスがとれてきました。生育がとても早い年で、雨が少なく日照量や気温も素晴らしく、ブドウはとてもよく成熟して、アルコール度数も随分上がりました」。収穫量は「通常の25〜30hl/haとれました」というものの、結構少ない量ではあります。でも、ブドウがようやく新しい仕立てに慣れてきて、のびのびと成長できるようになったのでしょう。

 

その後の2012年も気になります。「比較的バランスのよい年でした。春は通常通りで、美しい夏が来て、収穫時期に雨が降り始めたので、短期間で収穫をしました。だいたいよい結果がでましたよ」といいます。4銘柄の赤ワインの共通点は、一段とアロマティックで凝縮感もある、という点でしょうか。食感のなめらかさもポイントのひとつだと思います。

 

この年の収穫量はグロローで17hl/ha、カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンで28hl/haです。ここの平均的な収穫量そのものが低いのです。樹齢を聞くと、グロローが60〜90年、カベルネ・ソーヴィニヨンが60年、カベルネ・フランで35〜45年というので、ちょっと納得しました。ちなみに、2012年に白のシュナン・ブランも植樹したようですから、できあがりが楽しみです。

 

ちなみにワインの熟成は、ドメーヌ・ルフレーヴで2年から6年ほど使われた小樽で、1年間行うそうです。ワイナリーの一角に洞窟があり「昔は人が住んでいて、茸の栽培をしていた」というだけあり、湿度が高くヒンヤリとした空間です。

 

現在のラインナップは、

グロロー(ヴァン・ド・ペイ)

カベルネ・フラン(AOCアンジュー)

ヴィオレット(カベルネ・フラン60%&カベルネ・ソーヴィニヨン40%)

これに、もうすぐ白ワインが加わります。

 

2011年は、気候の面ではある意味特異な年だったということもわかりましたが、いずれにしても年々クロー・ド・ネルの品質が上がってきていることは確かです。ビオディナミ農法による畑の活性化、そして収穫量の低い古樹の力が組み合わさった、スーパー・アンジューと呼びたくなる赤ワインたちでした。

 

(輸入元:ラック・コーポレーション

【その他のデータ】

畑:9.5ha

標高90m

土壌:上層から粘土石灰質/40cmの粘土/グレと呼ばれる陶器製作に向く砂岩質の粘土とシレックス・ルージュと呼ばれる赤い火打石/石灰岩

平年の収穫時期:グロロー9月末/カベルネ・フラン10月中旬/カベルネ・ソーヴィニヨン10月下旬

収穫:手摘み

発酵:区画ごとにホール・ベリーで、自然酵母による。20〜25日間。発酵初期のみ軽くピジャージュを行う程度。抽出はあまり行わない。

樽熟成:ルフレーヴの古樽で約1年

無清澄・無濾過/SO2 Total:35〜40mg/l

(text & photo by Yasuko Nagoshi)

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