おしゃれに飲む

初の青森訪問! いえ、正確には2回目です。ただ、前回は通り過ぎただけでした。青函連絡船最後の年のことです。東京から青森駅まで夜行列車で行き、青函連絡船に乗って北海道まで渡ったのは、8月の末頃だったと思います。今回はちゃんと青森に2泊して、美味しいものや綺麗な風景、そして温かいものに触れてきました。

 

<岡本太郎>

奥入瀬/暖炉雪が舞い散る青森を訪れたのは11月半ばのことでした。なんと、青森の初雪だったのです。東京よりもきっと随分寒いにちがいないと思って、ダウンを引っ張り出して大正解でした。宿泊先の奥入瀬渓流ホテルに到着した夕暮れには、もう山の木々は薄化粧をしていました。。

 

ロビーに入って驚いたのは、ラウンジにある暖炉の巨大な煙道です! 奥入瀬渓流をなす林が一面見渡せるガラス張りの広いラウンジは、吹き抜けになっていて、その中央にある暖炉には円錐形の迫力満点な煙道がありました。「森の神話」という題名がつけられて、人と森の妖精が戯れている様子が描かれている、岡本太郎の作品だったのです。やっぱり太郎はエネルギッシュですね〜。下から見上げていると、何か胸に迫り来るものを感じました。

奥入瀬/河神

岡本太郎の作品は、ひとつだけではありませんでした。別棟にもまた暖炉があって、その煙道の題名は「河神(かしん)」です。煙道そのものが彫刻作品になっていて、円錐をグッとねじったような形が川の流れを表しています。そして人の形状をした河神が、流れに身を任せている。こちらも太郎作と聞いて納得する、溢れ出てくるような勢いがあります。

 

奥入瀬/河童でも、実はもうひとつ。河童の像が林の中に! 夕食前に、林にディスプレイされたランターンを見に行こうと思って外に出ると、大きくてユーモラスな河童と出会いました。とっても可愛らしくて、思わず頬がゆるんでしまいました。この河童像だけはレプリカのようですが、奥入瀬渓流と岡本太郎と河童の関係は、翌日泊まった青森屋、というホテルに行ってわかりました。

 

<七子八珍と日本酒>

こんな寒い季節に、奥入瀬渓流ホテルまでわざわざ来たのには訳があります。七子八珍と日本酒を味わうためだったのです。いわゆる酒のつまみの珍味なのですが、青森県の食材をたっぷり使った15種類の珍味は、秋限定の贅沢です。魚卵を多く使うので、素材が寒い季節にならないと揃わないからです(季節により食材の産地やメニュー内容が一部変更になる場合がございます/七子八珍会席は期間限定です)。

奥入瀬/七子八珍

小さな器に盛られた七子八珍は、見るだけでもワクワクさせます。

「七子」は7種類の魚の子、魚卵を使ったもの。

すじこ。コノ子と小松菜。タラコのホウレン草和え。帆立の子の有馬煮(甘辛煮)。タコの子旨煮。焼き白子ボンズ和え。ブリ子だけはまだ出てないということで、欠席でした。

「八珍」は様々な海の幸。

フジツボ塩煮。ほや水貝。なまこ酢。鯛南蛮漬け。海峡鮪菊和え。焼き塩辛。鮟鱇友和え。雲丹と長芋。くりがに黄身酢。ブリ子の代わりにこちらが一品増えていました。

小さくて細長い米粒に似たタコの子も、トロッとしてちょっとジャリッとするフジツボも、生まれて初めて食べました。遠い昔、海水浴をしている最中によく目にしていましたが、フジツボって、食べられるのですね。

 

料理長の乙部さん曰く「以前は朝食としてお出ししていたのですが、お酒を飲みたくなる、というご意見が多くて夕食のメニューにしました」。見るからにおつまみなのに、反対にどうして朝食で出ていたのか、と思いませんか? なんと青森では、朝ご飯の時に白いご飯のおかずとして、魚卵をアレンジしたものや珍味を食べる習慣があるというのです。

 

考えてみれば、青森は雪深い冬を迎えます。だから雪が降る前に、様々な保存食を作るわけです。塩辛をはじめとする塩漬け、漬け物、魚や野菜の干物などなど。「今は除雪車が走りますから動けますが、山の中に住んでいると昔はスーパーまで買い物にも行けませんでしたからね」と、乙部さん。だからこそ、多くの食材を長期間保存して少しずつ使っていく。青森の環境とそこに住む人の智恵が生み出した産物だったのです。

 

そしてもちろん、七子八珍のお伴は日本酒です! せっかくなので、わがままを言って少しずつ飲み比べを。

「陸奥男山 金の生 無濾過」

切り立ての緑色のメロンのようなフレッシュな香りが華やかで、口当たりはなめらかながら後味はドライ。意外にも、キュウリや小松菜といった野菜類との相性がよくて、メロンの香りが引き立つことを発見しました。

「陸奥八仙 純米大吟醸」

白桃や梨、白い花の香り、それから独特の手造り感を思わせる香りがする、アロマティックで上品な味わい。こちらは、七子八珍の後に出て来た帆立の刺身と抜群の相性でした。帆立貝は青森の名産なのですね。冷たい海水だからでしょうか、繊維がはっきりとしていて、とっても甘くて美味でした。

「豊盃(ほうはい) にごり」

甘さと重さのある、飲みごたえのあるにごり。豊盃というのは、青森独自の酒造好適米で、この銘柄を造る三浦酒造だけが契約栽培しているそうです。鍋物に入っていたヒラガニと、とても美味しい関係でした。

 

盛りだくさんで大満足の夕飯の後は、露天風呂へ向かいました。大丈夫、それほど酔っぱらってはいませんでしたから。でも、もちろん画像はありません。奥入瀬渓流の滝のすぐそばにある露天風呂でした。滝の流れる音が絶えず、空からは粉雪が舞い落ち、名残の紅葉が見える暗闇の中で、冷たい空気と熱いお湯にひたる。しばし時を忘れてしまいそうな、温かい初雪を体験できました。

*奥入瀬渓流ホテルは、11月最終週から4月半ばまで休館です。2015年は4月17日オープン予定。

青森の魅力に触れる旅② 〜青森の祭りとワインの巻〜

青森の魅力に触れる旅③ 〜八戸酒造訪問の巻〜

(tex t & photo by Yasuko Nagoshi)

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