ワイン&造り手の話

親子

ワインは人なり、と思うことが多いですが、シャトー・レ・トロワ・クロワはとりわけ、造り手の家族愛が詰め込まれているように感じるワインです。元シャトー・ムートン・ロッチルド醸造長のパトリック・レオンが、息子のベルトランと共に取り組む、渾身のワインです。畑はボルドー右岸、フロンサックの高台にあります。

 

息子のベルトランさんには、以前会ったことがあり、レ・トロワ・クロワについて記事にまとめたことがあります。パトリックさんには、オーパス・ワンのヴァーティカル・テイスティングのために来日された時に、会っているはずです。2人とも、見るからに穏やかそうな人物ですよね。ワインへの熱い情熱を内に秘め、穏やかに思慮深く生きている。そういう印象を与える父子です。

 

「ボルドーの格付けシャトーと同じだけ手をかけて」造られているワインたち。

「ボルドーの格付けシャトーと同じだけ手をかけて」造られているワインたち。

<フロンサックな理由>

「いつか家族でワイン造りをしたい」という夢を実現させたパトリックさんに、どうして右岸の畑を選んだのか尋ねてみました。

「私はもともとボルドーの右岸で生まれ育ったのです。だからムートンに務めていた頃は、毎日右岸から左岸へ通っていました。そこで、家族のための畑を買おうということになり、家族の皆に相談したのです。『どこがいいかな?」と。そうしたら、全員がすぐに『右岸!』と言うのでね」。

 

フロンサックの高台にある、手入れもきちんとされた畑が見つかりました。

「360度見晴らしがよい高台で、サンテミリオンやポムロールも見えます。風通しもよく、粘土石灰質土壌で。とても気に入ったので、少しの財産を売って、この小さなシャトーと畑を買うことにしました。まだ当時1995年はムートンだけではなく、オーパス・ワンやアルマヴィーヴァもみていましたから、ここに費やす時間はほとんどなかったので、すべてベルトランに任せっぱなしでしたね」。

だから今でも、主導権や最終決定権などはベルトランにあり「彼がボス。全部把握しています」と、父パトリックさんは頼もしそうに息子に目をやります。

 

<淡いバラ色のロゼ>

ロゼとてもきれいな淡いバラ色のロゼを少量造っています。年間5,000本だけなので、多くは家族や友人たちのためのもののようですが、日本は「友人枠」で取り置きがあるようです。

ロゼは、そもそもベルトランの妹さんの結婚式のために造ったのが始まりです。旦那さんがオランダ人だからと、大量のビールと少量のロゼを準備したら、意外にもロゼの売れ行きがよく、ビールがたくさん残ってしまったとか。評判がよかったので、毎年少しずつ続けて造ることにしたのです。

 

贅沢にも樹齢30〜35年のメルロ85%、カベルネ・フラン15%で、セニエによるものです。冷えた状態でも美味しいですが、少し温度が上がってくると桃やベリー系の香りが華やかになり、味わいもよりソフトでまろやかになるので、ゆっくり食事と楽しめるロゼです。

 

<レ・トロワ・クロワ2012年>

スパイス、カシス、チェリー、ブラック・ベリー、ロースト香など、ほどよい凝縮感と上品さのある香り。そして、バランスよくなめらかで、まろやかさがあり繊細優美な姿です。

「最も重要なのは、バランス、エレガンス、ハーモニー」という、レオン父子ならでは、だと感じます。

 

パトリックさんに、ボルドーだけでなくアメリカやチリでもワイン造りの経験をして、得たものと与えたものがあるのでは? と尋ねると、ゆっくりと次のように語ってくれました。

「50年間、毎日、毎年、いつでも学ぶことがありました。気候、土壌、そして人から。その中で、人が一番大切なのです。実際に、そこに関わっている人がね。でも、最近はそこを忘れている人が多いのかもしれない。短時間で世界同時に情報が流れる時代だから。でも、技術でも文化でも、互いに交流して交換し合うことがとても大切だと感じています」。

「それに、知識のレベルが同じで、同じ区画のブドウを使ってワインを造っても、出来上がるワインは同じにはなりません。知識をどう生かしていくのかが、ちがうからです。私の母も言っていました。生け花をしていて、同じ花を渡されても出来上がりは人によってまったく別だと。技術だけでなく、ワインにはその人柄が反映されるのです」。

 

<ヴィラ・マリー2010年>

特別な少量のキュヴェ「ヴィラ・マリー」は、2000本のうち300本だけ日本に入荷することになったようです。

また閉じていて、果実の力強さもあり、エレガンスもあり、口の中でようやくフレッシュな果実やスパイシーさが現れ、タンニンも豊かで、まだまだ置いておきたいワインです。

2009年ヴィンテージから造り始めたこのキュヴェは「経験から生まれたワイン」だといいます。

 

「人の一生は短いから、あらゆることを試したいと思って、様々なトライアルをしました。偉大なワイン、究極のワインは、どのようにすれば造れるのか、試してみたのです。この土地の能力を最大限に引き出すワインとは何か? と問いながらね」。

「いくつかの樽からよいものだけセレクトする、という方法ももちろんあります。でも、そうではなくて最初から意図して造りたいと思ったのです。その結果がこれです。毎年、最良の区画を選んで20樽仕込んで、その中から10樽だけをヴィラ・マリーにするのです」。

 

数が少ないだけに、入手困難だと思いますが、どこかで出会ったら是非試してみてほしいワインです。ただ、開けるのは10年ぐらい経過した後のほうがよいかもしれません。

 

そういえば、今まで自社畑の広さが15.2ヘクタールとされていたのですが、昨年の秋に少量買い足して合計18ヘクタールになったそうです。「すぐ近所の畑で、実は10年間ねらっていたのです。ブドウの手入れはよくありませんが、土壌が素晴らしくてね」と、嬉しそうなベルトラン。一国の主らしく、抜け目がありませんね。

 

<付記:技術的なこと>

*畑の繁忙期は6月から8月。6月末頃から太陽光線が強くなるので、北と東側だけ除葉。8月末頃からはじめて南側を除葉。こうして、日照時間を多くすると共に、ブドウが焼けてしまわないように工夫。房から上20センチをすべて取り除いてしまう。

*すべて手作業で、小さなかごを使って手摘み収穫をして、除梗前後に2度選果する。

*ヴィラ・マリー2010年は、樹齢60年から100年のメルロ100%。縦にした小樽に区画ごとにブドウを入れて発酵。2週間の発酵期間中にピジャージュを行う。横に戻した小樽に移しマセレーションを4週間。その間、オクソライン(回転式樽ラック)を使って2日に1度ゆっくり樽を回し、その後18ヶ月樽熟成。100%新樽。

(輸入元:ミレジム)

(tex t & photo by Yasuko Nagoshi)

ボトル カテゴリー 赤ワイン
ワイン名 シャトー・レ・トロワ・クロワChâteau Les Trois Croix
生産者名 シャトー・レ・トロワ・クロワChâteau Les Trois Croix
生産年 2012
産地 フランス/ボルドー地方
主要ブドウ品種 メルロ85%、カベルネ・フラン15%(樹齢70年以上)
希望小売価格 4,200円(本体価格)
輸入元/販売店 ミレジム
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